売場当番
色んな直売所に行きますと、今でも結構生産者さんがレジで会計をしている姿を見かけます。各直売所で様々な理由があろうかと思いますが、大体は雇用による人件費を削減するためというのが多いでしょう。
私がいた施設では、レジは雇用でスタッフが接客をしておりましたが、生産者さんは売場を見回るという当番制を設けていました。
商品をただ並べてすぐ帰るのはいけないと。お客様のことや売場のことを知らずして商売とは言えない、また生産者の顔が見えない売場というのはよろしくないということからずっとこの取組をしておりました。
これはとても良いことでしたが、農繁期の時期や天候が良いときなど、農作業ができないと生産者さんからクレームも多々あり、当番を請け負ってくれる人を用立てたり、農繁期にあまり関係ない人と交代してずっと当番制を行っていました。
私の個人的見解ではレジや接客においては生産者さんが立つべきではないと思っています。中には向いている方もおられますが、商品の売場案内や会計スピード、接客用語、丁寧な対応はやはり専門スキルを持ったスタッフがやるべきです。生産者さんは自身の作ったものであれば知識はありますが、それ意外は説明ができませんし、言葉遣いもよろしくない方がいらっしゃいます。生産者さんによってお客様の対応がまちまちですし、何より接客という任務の重要性を理解されていない方が多いためです。
以前、他の直売所に行った時、高齢の女性生産者さんが当番としてレジに立っておられました。やはりたまにしか立たないせいもあるのでしょう。レジ操作もあやふやですし、おろおろしていました。同じレジにいたその施設のスタッフである男性のイライラした態度が気になっていたところ、案の定生産者さんをお客様の前で叱っている姿を目撃したことがあり、大変不快な思いをしたことを今でもよく覚えています。
今でも忘れられない出来事があります。ある日、私が受けたお客様からの一本の電話。
お客様が電話口で非常に怒っていらっしゃるのです。それは、売場にいた生産者からとても不愉快な対応をされたとのことで、あまりに腹立たしくて新聞にこの出来事を投稿すると言ってこられました。
私はなんとかお客様の情報を聞きたかったのですが、お名前を教えてはもらうことはできませんでした。ですが、なんとか電話番号と住んでいる地域だけを教えてもらいました。その地域は施設から車で2時間以上かかる場所でした。住所も分からず、ただただ申し訳ない気持ちと謝罪をするために、鉄砲玉のように車に飛び乗りその地域に向かいました。時刻は夜7時過ぎでした。
飛び出てから時刻は夜9時近くになり、向かったはいいものの住所もお客様の名前も分からず、バカな自分にやっと気が付き、お客様に電話をしました。
「どこに向かったらいいのかも分からず、ただ飛び出してきたのですが、こんな時間に本当に申し訳ございません、お会いしていただけないでしょうか。」とお話をしたところ、ご自宅は教えてくれませんでしたが、近所のスーパーの駐車場で待ち合わせをしようとおっしゃってくださいました。
そして、そのスーパーに急いで向かったところ、寒い中お客様は私を待っていてくれました。しかも、重たいジュースの箱を抱えて。
「こんな遠いところまでよく来たね、場所も分からないのに。」そう言って、私を労い重たいジュースを差し出してくれました。私は申し訳ないのと嬉しさで涙が出ました。
お客様を不快にした原因は生産者の言葉と態度に原因があったことが分かりました。
お詫びを申し上げたところ、新聞への投稿はしないと言ってくれました。
深々とお礼をし、帰宅したのは夜の12時頃でした。
そのことを生産者自身に伝えましたが、何が悪いのかという感じで全く反省の色なしでした。
それから数週間後。
数台の大型バスがやってきました。
降りて来られた先頭の人を見て驚きました。あの時夜にお詫びに行ったお客様でした。
その方は、とある団体の会長さんだったようで、私のために大勢のお客様をお連れしてくださったのでした。本当に驚きましたし、とても嬉しかったです。
あまりのサプライズだったので、何年経っても忘れられない出来事です。
生産者さんの接客が全てダメとは言いませんが、接客対応は無理してやらせることに私は今でも反対しています。売場にいることは大事なことですが、商品管理や簡単な説明くらいで抑えた方がいいかと思っています。
現在当番制は、自分の事業の時間が潰れるとの生産者さんの声が多くなり廃止されたそうです。商品を並べてすぐ帰るだけで、売場の状況もお客様が何を買われているかも全く分からないようです。生産者自身が運営している店にも関わらずです。
続く